橋本昌人プロフィール
(株)ブック・ブリッジ 代表取締役社長
放送作家、涙活講師、日本笑い学会・理事、吉本興業タレント養成学校「NSC」特別講師。
大阪府寝屋川市出身。
大阪芸術大学 芸術学部 放送学科卒業。
お笑いのプロのノウハウを生かして、企業研修などで「お笑い研修プログラム」を実施。コミュニケーション能力アップを指導する。「大喜利ワークショップ」「漫才大学」「ツッコミュニケーション®お笑いプログラム研修」など。
2013年より涙活を手掛け、その活動はNHKなど、多くのメディアで取り上げられている。
https://book-bridge.jp/
涙活とは
―橋本さんの「涙活」について教えてください
企業や学校、高齢者施設などで、涙を流していただく機会を設けています。私は放送作家という職業柄、いろいろな人の経験を取材することが多く、そこで出会った心を動かされる出来事や言葉を集めて、本人の許可を得て披露しています。誰かの経験や思いを伝えて、その場にいる人と感動を共有する活動です。
―みんなで泣く、ということに抵抗がありますが…
そうですね、私も元来涙もろいほうではないのでわかります。ですから、必ず泣かなくてはいけないというものではありません、とはじめに説明しています。感動や共感によって自然に涙が出ればそれでいい、出なくてもいい、という感じです。
涙の効能に気付く
―涙活を始めたきっかけを教えてください
放送作家として、まだ駆け出しだった頃です。当時は大阪に、吉本興業の若手が出演する二丁目劇場という舞台がありました。ここで人気が出た芸人が東京に行って全国区の人気者になっていきました。次のスター芸人を育てないといけないという使命感に燃えて、舞台やテレビ番組の台本を書くわけですが、とにかく忙しくて、心身共に疲れきっていました。
その頃担当していたバラエティ番組で、「誰かへの感謝の手紙」を募集するコーナーがあって、応募された手紙を自宅に持ち帰って選んでいたんです。深夜、疲れて帰ってきてそれを読むと、内容に引き込まれて自然に涙が出てきました。泣いたあとに寝ると翌朝すごく気持ちがすっきりするんです。そんなことが何度もあって、泣くことでストレスを解消できているのではないかと気づいたんです。
「涙活」に力を入れようと決めたのは2013年頃のことですが、その後、涙を流す多大な効果を広めようと「涙活」を早くから提唱されている寺井広樹さんと出会って意気投合しました。寺井さんは「涙活プロデューサー」、私は手紙(ラブレター)を用いた「涙活講師」と呼ばれています。
誰かのことを思って書いたものは「ラブレター」
―著書は「なみだのラブレター」というタイトルなんですね
恋愛だけでなく、誰かのために本気で書いた手紙を私はラブレターと呼んでいます。相手は親かもしれないし、友達かもしれない、自分自身への手紙だってラブレターです。手描きでもE-mailでもいいんです、もしかしたら相手に渡さないかもしれない。でも、その時に感謝の気持ちを届けたいと思って書いたもの、それがラブレターです。
―そのラブレターが涙活に使われるんですね
はい、いろんな方のラブレターと出会って、許可をもらって紹介しています。セミナーでは私が音読するのですが、物語がわかっているのに、自分も泣きそうになってしまって、がまんするのが大変です。10年近く、多くの人の思いに接するうちに、感受性が豊かになってきたのかもしれません。少し涙もろくなってきました。
―文章に思いがこもっているんですね
文章が上手だから泣くのではなく、書き手の気持ちが文章に焼き付けられているから、読み手の心がふるえる。心がふるえるから涙が出るんです。
ラブレターの例を紹介しましょう。行きつけの居酒屋でよく出会う男性が、私の活動を知って「娘が結婚したら渡そうと思ってる」と、近々嫁ぐ娘さんに宛てて書いた手紙をくれたんです。要約します。
娘が6歳の時に妻が事故で亡くなり、悲しみが深くて娘を連れて後を追おうとした。
その日、最後の思い出にと家族3人で行った遊園地で、娘のために無理やり笑顔を作って遊んだ。たくさんの乗り物に乗った後、娘は笑顔で「もういいよ、お母さんのところに行こう」と笑顔で言ったそうです。
その時、その男性は、ハッと目が覚めた。幼い娘は父の思い詰めた気持ちに気づいていた。
「そんなことしたらお母さんに怒られる」と返した言葉に娘は大声で泣きだした。
葬式の時以来涙を見せなかった娘が……。
孫ができたら、お母さんの入場券も買って、みんなであの遊園地に行こう。
そう結ばれていました。
いつも冗談ばかり言っている人なので、そんなことがあったなんて知りませんでした。人はいろんなことを抱えているんだなと、この人から大事なことを教えてもらった気がしました。
涙を流すことで心が癒される
―泣くとすっきりするというのは事実なんですね
はい、科学的にも実証されていて、心にジーンと響いて流れた涙には、ストレス性のホルモンが含まれているそうです。涙がストレスを包み込んで外に出しているんですね。玉ねぎを切った時のような刺激を受けて出る涙には、そういう成分は含まれていないそうです。
「情動の涙」と呼ばれる涙が、ストレスを軽減したり、ネガティブな感情をデトックスしてくれるんです。
涙と笑いは関係がある
―笑いから流れる涙もありますね
はい、喜劇でも、さんざん笑わされたあとに、人情あふれるシーンが出てきてジーンとくることがあります。心の琴線にふれて出た泣き笑いによって、その作品がよりいっそう記憶に残り、あとあじもいいんです。
私はお笑いの作家として、笑いというものを知っているつもりでしたが、涙活によって、笑いの本質に気づかされました。心を動かすのが笑いであり、感動です。その結果、流れるのが涙。
笑いって本当に大事です。先ほどのお父さんは、最後の日だからと無理に笑っていました。でもきっと笑うことがパワーになって、自分や周りの心を動かしたんです。人は心を揺さぶられると、何かが変わるんです。
心のどこかに残っている思いを手紙に書いてみよう
―芸人さんたちにも評価されていますね
お笑い放送作家出身の私が、感動的なことを書いたり語ったりすることに抵抗があったと思うんです(笑)。なんでお前の言葉で泣くんや、みたいな。でも評判はよくて、芸人の兵動大樹さんは「泣ける、泣いた後、人生って素敵やなぁと思える」と著書の帯に書いてくれました。
パーソナリティの浜村淳さんはラジオの番組で、1週間毎日、朗読してくれました。するとリスナーから「涙があふれて運転ができなくなって営業中に車をとめて泣いた」という手紙が届いたそうです。
―他にはどんなところで活動されていますか?
涙活で刑務所の更生プログラムのお手伝いもしています。罪を犯した人や心に傷を抱えた人が、自分の心の内を見直し、特定の人に思いを伝えようとすることで気付くことがあるんですね。
普段、身近な人にすら思いを伝える機会はそうはありません。だからこそ、立ち止まってそんな機会を作ってほしい。子どもの頃のことでもいいし、今はもう会えない人が相手でもいいんです。心のどこかに残っている思いを手紙に書くことで、自分自身が癒されるし、それを読んだ人の心にも、なにかが伝わります。ぜひ皆さんも書いてみてください。
※一般の方の手紙は随時受付けています。hashimoto@bkb.jpまで、メールでお間違えのないようお送りください。発表する場合は事前に許可をとらせていただきます。
【書籍概要】
●タイトル なみだのラブレター
●著者 橋本昌人
●発行 ヨシモトブックス
●定価 1,320円(税込)